臨床現場において、患者さんの急変対応や急変を予測して動かなければならない時、焦って上手く伝えられないということがあるのではないでしょうか。
新人ナースは特にですが、ある程度ベテランになってからでも焦ることって多いと思います。復職や転職をしたばかりで新しい勤務先の医師とのコミュニケーションがまだ慣れていない人もそうです。焦って上手く伝えられないと、伝達ミスによる医療事故が起き、患者さんに命の危険をもたらす可能性も高くなります。
そこで今回は、医師やスタッフへの報告に役立つ効果的なコミュニケーションとして「SBAR」という方法をご紹介いたします。
◯SBAR(エスバー)とは
SBARというのは報告において必要な要素の頭文字を取ったものです。
S:Situation(患者の状態)
B:Background(患者の背景・臨床経過)
A:Assessment(アセスメント)
R:Recommendation(提案)
というのが主な構成となります。
もともとは医療安全対策として長年の研究結果を基に作成されたプログラムと言われております。
現在、大学病院や規模が大きい病院でこのようなプログラムを取り入れている医療機関があります。
では、実際に例を用いて話をしていきます。
◯事例を見てみよう
Aさん85歳 女性 結腸左半切除術 術後3日目
既往に不整脈、心筋梗塞
T37.4℃ BP90/54 P120 SpO290〜92%(ルームエア下)JCSⅠ—3
夜間に心電図モニターで脈拍が速くアラームが鳴っていたので様子を見にいったところ、ゼーゼーした呼吸をしてベッドから起き上がって座っている患者さんを発見。「息苦しい」との訴えがありました。
チアノーゼなし。湿性咳嗽あり。聴診にて両肺ラ音を聴取。尿量が昨日より減少している。日勤帯から就寝前の状態は、息苦しさはないものの、元気がない様子で横になっていることが多く、日中はあまり離床もできてはいなかったようだ。
以上の情報をもとに、医師に報告するとき、あなたはどのように報告しますか?
主治医であったりその患者さんのことをよく知っているスタッフであれば、話が伝わりやすいですが、当直の医師など、よく知らないスタッフに一から話を伝えなければいけない時ってありますよね。
もしこの状況で当直医師に電話をかける時、
「先生、◯◯という患者さんなんですが、脈拍が上がってて…あ、体温は高くないんですが、えっと、この方確か左半結腸切除術のオペ後3日目なんですけど…」
なんて、情報が整理しきれずに伝えてしまったら、相手はどう思うでしょうか。
当直医は「だから…何をして欲しいの?」ってなりますよね。「後にして!」と電話を切られてしまうこともあると思います。
◯例に沿ってSBARを使ってみよう
そこで、SBARツールを使って必要な情報を整理してみましょう。
まずその前に、本当に報告が必要か、カルテからの情報収集や経過の過程(これまで日勤帯からの患者のアセスメントはどうであったか)、主治医からの指示表などを確認します。
それでも報告が必要と判断した場合、必要な要素をピックアップしていき、S(状況)→B(背景)→A(アセスメント)→R(提案)の順番で伝えていきます。
以下の表は、先ほどの例をSBARのツールに当てはめたものです。
いくつかポイントもまとめておきます。
S:状況、患者の状態
(この最初に伝えるSは緊急性が高い症状を先に訴えると効果的!) |
Aさん、85歳で左半結腸切除術3日目の方が、呼吸苦を訴えています。SpO2も90%脈拍120台、血圧も90/54と低く、呼吸もゼーゼーしています。 |
B:患者の背景・臨床経過
(アセスメントに必要な経過や情報を述べる) |
日中から離床が進んでおらず、元気がない様子が続いています。尿量も昨日より少なくなっています。
もともと不整脈、心筋梗塞の既往あります。 |
A:アセスメント、判断(何を疑っているのか、自分は原因がなんだと考えられるのか、この部分がわからない時は「何が起きてるか分からないが、患者さんの状態が悪くなっている」と言ってもいいですし、アセスメント自体省略してR:提案を先に述べてもよい) | 肺水腫、心不全の可能性があります。 |
R:提案(どうしてほしいのかという提案やどうしたらよいのか指示を受ける、もし経過観察でもよさそうであればそれで良いのか、どうなったらまた相談すればいいのかを伝える) | O2の開始をしてもよろしいでしょうか。
利尿剤や補液などの指示がでていないのですが追加したほうがいいでしょうか。X線検査など行いますか? |
いかがでしょうか?このように整理すれば患者さんがどんな状態で、どのようにしてほしいのか、分かりますよね。もし言いそびれてしまっても、医師が知りたい情報があればきちんと聞いてくるはずです。大切なのは、自分が何に不安だと思っているかを伝えることです。
このSBARは医師だけではなく、上司や先輩ナース、他の医療職者への報告にも効果的な方法です。ちょっとした報告でも、このツールを頭に入れて整理する訓練をしておくと、報告することにためらう気持ちもだんだんと少なくなってくると思います。