遺伝子は私たちの体の細胞に存在し、体の機能が正常に働くようにコントロールしています。遺伝情報が含まれるDNAが遺伝子の本体です。DNAの遺伝情報はmRNAと呼ばれる分子にコピーされ、その情報を元に様々な酵素やタンパク質が作られています。このことから分かるように、遺伝子つまりDNAに異常が起きると体にとって有害なタンパク質が作られ病気を引き起こします。

現在治療に使用されている薬のほとんどは、タンパク質に働きかけるものです。これに対し遺伝子治療は、タンパク質が作られる前のDNAの段階で治療を行うので根本治療になると考えられています。

遺伝子治療は、患者の細胞に遺伝子を入れることによって病気を治療する方法です。遺伝子治療には、うまく機能しない遺伝子や傷ついた遺伝子の代わりに正常な遺伝子を入れる方法と、がんなどの病気の原因になっている遺伝子の働きを抑制する方法の2つがあります。遺伝子を導入する方法にも2種類あり、体外遺伝子治療と体内遺伝子治療と呼ばれています。体外遺伝子治療は、患者の細胞を一度体の外へ取り出して目的の遺伝子を入れてから再度体に戻す方法で、体内遺伝子治療は直接遺伝子を導入する方法です。このように遺伝子治療は、欠けている遺伝子を補足したり、体にとって有害な遺伝子を抑制したりできるため、今までの治療法では対応できなかった遺伝病やがんなどの根本的な治療になるのではないかと期待されています。

世界初の遺伝子治療は、1990年にアメリカで行われました。治療の対象となった患者は、先天的な免疫不全症であるADA欠損症と診断されていました。日本では、1995年に北海道大学で同じくADA欠損症に対し初めて遺伝子治療が行われました。アメリカでの初の遺伝子治療以降、世界各国で2000以上の遺伝子治療の臨床試験が行われており、日本でも腎臓がんや肺がんに対する治療が試みられています。現時点の遺伝子治療の第一ターゲットは、特定の遺伝子の欠損が原因で引き起こされるADA欠損症や家族性高コレステロール血症などのような遺伝病です。これらは稀な疾患であり対象となる患者が少ないですが、より対象者が多いがんやアルツハイマー病、パーキンソン病、循環器疾患、感染症などに対する遺伝子治療を行えるように、日々研究が進められています。

遺伝子治療に対して次世代への影響を心配する声が時々上がりますが、それは誤解と言われています。現在の遺伝子治療は、あくまで患者個人の世代に限定されるように体細胞に特定の遺伝子を入れるようにしているからです。次世代に遺伝するのは卵や精子などの生殖細胞に含まれている遺伝情報なので、体細胞は関係ありません。

生まれつき遺伝子が欠損している病気だけでなく、高血圧、がん、糖尿病、肥満など多くの病気が遺伝子異常と関連していることがすでに分かっています。現在の遺伝子治療は臨床研究として他に治療法のないがん患者の場合などに限定して行われているので、今後様々な病気の治療法となることが期待されています。