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日本では高齢化が進む中、看護師不足が問題となっていますが、果たして本当に看護師の人数は足りないのでしょうか。「ペーパー看護師」なんていう呼び方をすることもありますが、看護師の資格は持っているのに何らかの理由で看護師として働いていない潜在看護師は、世の中にたくさんいます。

今、臨床で働いている人もそうでない人も、一度は看護師になろうと辛い実習を乗り越え、国家試験を突破してきた仲間。看護師を目指そうと思った理由も、人それぞれでしょう。

今、私は看護師としてフリーで働いています。日頃は看護師としての業務と家庭の両立とで忙しく、どうして自分が看護師を目指そうと思ったのか忘れてしまいがちですが、看護学校の門を叩いたときの気持ちを、ここでもう一度思い出してみようと思います。

私が看護学校に入学したのは、28歳のときでした。一度は大学を卒業し、社会人生活を経ての入学になります。

小さい頃、看護師をはじめとする医療関係の仕事には、全く興味のない子どもでした。ただ、幼い頃は病気がちだったこともあり、繰り返し病院のお世話になっていました。通っていたのは家からすぐの総合病院でしたが、何度も何度も通っていたため、病院のスタッフの方々とはすっかり顔なじみになっていました。物心ついてから初めての採血もその病院で、恐怖のあまり泣きながら診察室から飛び出した私は、体格のいいレントゲン技師さんに捕まえられて、あっさり小児科の診察室に連れ戻されたことを覚えています。手のかかる子どもだったのでしょう。ですが、そんな私にも、当時の小児科の看護師さんは寛大でした。

 

大きくなるにつれ、通院する機会は減り、医療とは縁遠くなっていきました。もともと血を見るのが怖かったこともあり、高校・大学へ進学する歳になっても、テレビで放映されている医療関係の特集番組などは避けていたように思います。

そんな中、20代の後半に差しかかった頃、患者の立場から見る看護師ではなく、一職業人としての看護師に興味が沸いてきました。特にきっかけがあったわけではありません。当時は既に社会人として働いていましたが、単純に違う世界が気になったのです。初めは看護師の仕事についても、色々と気になる違う世界の中の一つでしかありませんでした。

患者の立場で考えてみると、看護師さんにはいつでも優しく、それこそ天使のようでいてほしいと思いますが、同じ社会人という視点で見てみると、相手のことを常に考え、そのために行動する、しかも生きていく上で切っても切り離せない、命の問題に関わり続ける看護師として生きることが一体どんなことなのかを、ただただ知りたいと思ったのです。

 

看護師という職業をもっと知りたいと思い、看護師になるためのハウツー本から看護師の書いたエッセイ・漫画・看護学校受験の情報本まで、色々な本を読みあさりました。そこには笑えるエピソードから悲しい出来事、働く上での現実など、実に様々なことが書かれていました。それらを読み進めていくうちに、世の中の全ての人が看護の対象となる可能性があることの面白さや難しさ、人の命に直接携わる強さと、その強さの陰にある看護師の人間らしさなどに触れ、ますます看護師という職業に興味が湧き、自分も看護師を目指したいと思うようになったのです。

 

看護師になりたいとは思ったものの、当時就いていた仕事や受験勉強のことを考えると、多くの葛藤がありました。そのときの仕事が嫌になったわけでは決してなく、むしろ楽しんでいたからです。また、高校を卒業してから10年程経ち、受験に必要な数学や英語のことなどきれいさっぱり忘れていたことも、受験をためらう要因になりました。

結局、受験しても受かるかどうかもわからないのに、いつまでも悩むことに意味はないと考え、心を決めて受験をすることにしました。

 

思い悩んでいるだけで、受験勉強も願書などの手続きもしていなかったため、大慌てで資料を取り寄せ、本屋へ看護学校の過去問などを買いに走りました。受験までは3か月しかなかったため、ひたすら解答を読み込み、高校時代の記憶を呼び覚まそうと必死でした。

何とか受験の日を迎え、周りの受験生を見ると、予想以上に同年代やさらに人生経験の多い人がたくさんいることに驚きました。実際入学してみると、社会人経験者と、社会人経験はないものの大学や短大を卒業してすぐに看護学校に入学した学生が約半分を占め、残りの半分が高校を卒業してそのまま看護学校への道を選んだ生徒でした。

 

看護学校では実技試験や実習が毎日のように続き、息つく暇がなく大変ですが、レポートや試験で忙しいため、3年はあっという間に過ぎていきました。希望の病院に就職も決まり、まだ見ぬ新しい世界へ期待を馳せつつも、実はまだ、入学前にしていた仕事にも未練がありました。看護学校時代、以前の仕事にアルバイトで関わり続けていたこともあり、本当に看護師として就職するのか、もとの世界に戻るのか、葛藤が続いていました。その葛藤は入職式前日まで続きましたが、病院に一歩足を踏み入れると、「ここで働くんだ!」という意識がはっきりと芽生えたのがわかり、迷いが消えました。

 

以前は血を見るのも怖かった私ですが、就職試験で希望を出していた手術室に配属が決まりました。大きな病院で非常にハードな新人時代でしたが、看護師生活を続けていく上で、大きな糧となりました。

その後は、出産・育児などで転職し、現在はフリーで働いています。しんどいことは正直たくさんありますが、そんなときは子どもの頃に通っていた病院の、いつでも大らかに接してくれた看護師さんのことを思い出します。

看護師は、人間が相手の仕事です。健康問題というデリケートな部分に関わるため、ときに患者さんの非常にプライベートな部分まで見えてしまうことがあります。それ故に看護師は、技術や知識だけでなく、人間性を深めることが求められます。看護師という仕事は、人生において経験した全てを活かすことができる仕事です。その奥深さは、私が看護師を続ける原動力になっています。